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上智大学大阪サテライトキャンパス特別講座
12月8日(日)「他人(ひと)ごと」から「自分ごと」へ、支援に繋がる視座の持ち方を開催しました。

 上智大学大阪サテライトキャンパスでは2024年12月8日(日)に特別講座「他人(ひと)ごと」から「自分ごと」へ、支援に繋がる視座の持ち方を開催いたしました。
 世界には数えきれない問題があり、それらを「他人ごと(ひとごと)」ではなく「自分ごと」としてとらえる視点を持つことは、他者のために、他者とともに“For Others, With Others”という上智大学の理念を体現しています。この理念を持って国内外で支援に取り組む卒業生の事例と思いを通して、支援活動の重要性とその視点を「他人ごと」ではなく「自分ごと」として捉える大切さを探りました。

 イベントへの参加者は中高生に限らず、広く一般の方からも参加がありました。冒頭、永井敦子学生総務担当副学長から「日々忙しい中で海外での支援を縁遠いものとして感じられている社会人の方々にとっても、本日の機会が、日常の中で何か支援に繋がるような“自分ごと”をみつけられる一助となれば幸いです。」と挨拶がありました。

講演:他人と自分の「距離感」から支援を考える~比較・国際教育学の視点から~

 東ティモールにおける教授言語問題を研究されている須藤氏の講演では、今回のテーマである「自分ごと」という考え方が世間に広く浸透したきっかけは“SDGs”というワードの普及ではないかと投げかけました。SDGsの前身は2015年に採択された「ミレニアム開発目標:開発途上国における貧困や教育、健康などに関する開発目標(MDGs)」であるものの、この目標は途上国の課題に焦点を当てたものでした。SDGsではグローバル規模の課題解決への目標が示されている一方、これらの課題規模はあまりに大きいため、一人ひとりが実感を持って自分ごととして捉えることが難しいという問題点を指摘しました。須藤氏の研究分野である比較・国際教育学からの捉え方の紹介を交えながら、課題解決に向き合う際には「他人ごと」と「自分ごと」、いずれの立場にも自身がなりえる可能性があることを紹介されました。
 同時に、「他者」と「自分」の距離感を埋めるアプローチ方法についても、国内外の人と教育をめぐる諸問題を、フィールドワーク等を通して考察してきた経験から、「他者の置かれた状況や課題を体験することで、他人の境遇に迫ることができたように感じた。」と語りました。
 また、距離感を埋めるもう一つのアプローチとして、諸外国の教育課題を横断的に考察する比較教育学の手法も紹介されました。それは、現地調査へ赴きその土地の人々と生活を共にすることで、文献だけでは得られない実態を知ることができ、それによって他者に起きていることが、自分周囲で起きている課題と地続きであることの理解に繋がったと話しました。一例として、東ティモールにおける教授言語問題を研究する過程で、日常言語と学校での教授の言語が異なるという問題を抱えている点が、近年の日本の教育現場が抱える問題にも通じていると気づいたという体験を紹介しました。
 東ティモールで教育問題解決のために活動する中で、自身が解決策と思っていた考えと、現地の人々が求めていた想いの大きなギャップに打ちのめされた経験も共有しました。同時に、「自分は他者にはなれない部外者だからこそ、アウトサイダーとしての視点で捉えることの研究活動を続けたい」と、今後の展望についても語りました。

講演:他者に手を差し伸べるということ~「泥臭い」支援現場の面白さ~

 上智大学在学中から、将来は国際的な働きができる機関や機構での就職を考えていた中司氏は、国際機関のインターンシップにも積極的に参加しました。ただ、そこでの職務は世界の様々な問題を安全な場所から情報としてキャッチし発信するに留まることに違和感を覚えたと語ります。また、在学中に訪れたパレスチナ・イスラエルでは、日常に暴力がある光景に、知識だけでは解決できない様々な難題と現実を目の当たりにしたと語ります。
 卒業後はイギリスのSOAS University of Londonでパレスチナ・イスラエル問題を研究し中東研究修士を取得されました。そのイギリス滞在中に、パレスチナ支持のデモの現場に遭遇した際に、現場近くの地元ホームレスの人々が雑に扱われている光景を目の当たりにしたことに強い衝撃を受けたことが、自身の大きな方向転換の契機なったと語ります。世界規模の課題解決に携わるにはまず自分の足元からという気付きから、日本の貧困現場に携わろうと決心します。そうして、帰国後は地元の大阪でホームレス支援を行うNPO団体に入職することを決心しました。

 ホームレス支援を行うNPO団体では、日々の生活に関する細やかな対応から、支援者同士のトラブル仲介など、目の前で起こる問題解決に奔走する日々だったと語ります。泥臭い現場での経験は、対人支援の難しさや、貧困のバックグラウンドにある社会問題をダイレクトに感じる機会になりました。日々、大変なことに溢れていた現場ではあったが、そこに人がいてこその繋がりや問題がある現場に、やりがいと楽しさを見出したそうです。
 現在は、外国人技能実習生と受け入れ先企業との仲介役を担う管理団体に活動の場を移しています。中司さん自身が現場を通して感じる、技能実習制度の問題点や、国の施策と企業とのギャップの現状も指摘されました。現在関わる現場で起こるトラブルは、特に対人関係から発生するものが多く、画一的な解決策を構築できない難しさがあり、自身の対人関係における人間力が試されるようだとも語りました。
 これまで多様な環境で様々な境遇にある他者と関わる経験を重ねてきた中司さんは、「他者の背景を知ることで、自分の常識や価値観を疑うきっかけが生まれ、面白みを感じながら社会に対しての新しい視点や理解度が増していっていることを肌で感じている。」と語りました。

パネルディスカッション 「他人(ひと)ごと」から「自分ごと」

 永井学生総務担当副学長、須藤氏、中司氏、それぞれの視点を交え、支援に関わる視点の持ち方と心持ちの在り方について議論を深めました。
 冒頭、急遽参加が叶わなくなった倉田正充准教授(上智大学経済学部経済学科)の研究や取り組みについて、読売新聞オンラインタイアップ特集 上智大学の視点~SDGs編~を引用しながら紹介しました。その中で、人工衛星のデータを用いた最新の研究だけに限らず、現地調査でしか判らない情報もあるとの指摘には、須藤氏、中司氏も自身の経験に大いに通じるところがあると語りました。両人とも失敗から得た教訓や、現場を通して得た視点など、具体的な経験譚を交えて会場の皆さんに共有されました。
 インターネットを利用した情報集積も利点は大きいものの限界があること、現地の情報を得るにはとにかく足で稼ぐことだと須藤氏は強調しました。中司氏は、支援を通して経験した失敗が、支援者との適度な距離感を保つことに気付くきかっけになったエピソードを共有されました。
 「支援」という言葉には、何かをしてあげるという意識が、無意識のうちに潜在していると永井教授は指摘します。喜んで貰おうという気持ちからの自分の行動が、受け取る側にとっては迷惑であったり、間違いになってしまう場合もあるかもしれません。それでも、そこで挫けずに、その原因を考えて活動を続けていって欲しいと話しました。
 他者との違いを理解し合い、相手のニーズをしっかりと汲み取ること、人の視点に加え、自治体や国、世界全体の視点も考慮することが、大切なポイントではないかと提案しました。
 また、即効性だけを追求せず、持続可能な方法を考えること。遠い目標だけでなく、自分の足元にも目を向けること。何より、現地の人々と手を取り合い、思考と活動をやめないことが、支援を「自分ごと」として捉えるポイントではないかと語りました。
 参加者からは「自分で調べるだけではなく、実際に足に運んで現地を肌で感じながら学ぶ大切さを学びました。」「自分の知識や新しい考え方、捉え方を学ぶことができた。」などの感想が寄せられました。